歯の萌出異常には、時期の異常、位置の異常および方向の異常などがあります。その多くが局所的な原因によりますが、時期の異常では全身的な原因によることもあります。
○歯の萌出
歯の萌出とは、歯が顎骨内から歯肉を破って口腔内に出現する過程をさし、歯根の形成が開始されると、まもなく始まり、歯が口腔内に現れた後も一生継続します。対合歯と咬合してからも萌出運動は続き、咬合運動によって生じた咬耗による歯冠の短縮を補っています。
➀乳歯の萌出時期と順序
乳歯は平均生後8か月ごろに下顎乳中切歯(前から1番目)が萌出を開始します。2歳半ごろに上顎第二乳臼歯が萌出して、20本の全乳歯が萌出を完了します。萌出の時期は個体差が大きく、また、人種差、性差があり、3~4か月の差異は異常ではありません。萌出順序は、ばらつきがあります。
➁永久歯の萌出時期と順序
永久歯は生後6歳ごろに下顎中切歯あるいは第一大臼歯が萌出を開始します。12歳ごろに上顎第二大臼歯が萌出して、28本の永久歯が萌出を完了し、永久歯列が完成します。
萌出順序については、乳歯よりもばらつきが大きいです。
上顎の犬歯が生えてくるのは、10~12歳ごろが一般的ですが、ほかの歯が生えた後、高い位置から顔を出す犬歯は、生えきるまでの移動距離が長いため、通常、先に生えている側切歯の歯根の縁を沿うようにして降りてくると考えられています。しかし、最近では犬歯が正しい位置に生えてこない子どもが増えています。その理由は、最近の子どもたちは昔に比べて頭の大きさが小さく、顎の幅も狭いのに対して、歯の幅が大きいためです。食生活などの変化に伴って、顎が細くなり、永久歯が生えるスペースが不足し、最後に生えてくる犬歯が萌出スペースを失い、萌出障害(正しい位置に生えない)を起こします。
犬歯は咬み合わせを安定させる重要な歯となり、その歯が正しい位置に生えない場合、臼歯に対する力のコントロールが不安定になるため、長期的にみて臼歯の咬み合わせに負担がかかったり、歯列の乱れの原因にもなってしまいます。
○歯の萌出時期の異常
➀早期萌出
普通よりも異常に早い萌出のことをいいます。まれに出生時にすでに萌出している歯を先天歯といいます。生後1ヵ月以内に萌出してくる歯を新生歯といいます。先天歯のほとんどが下顎乳中切歯(前から1番目)で、過剰歯が先天歯であることはまれです。
この先天歯は、歯根がほとんど形成されていないため、動揺が著しく、エナメル質の形成が不良なため、切端が鋭利な形態となり、哺乳時に舌の裏に潰瘍を形成することがあります(リガ・フェーデ病)。
このような場合は、先天歯の鋭角部を円滑にするだけで潰瘍は消失します。症状が悪化する前に、早めに歯科医院へ受診しましょう。また、唇裂・口蓋裂がある場合には、授乳指導を行う必要があります。
➁萌出困難
萌出方向の異常あるいは萌出場所の不足により、正常な萌出が妨げられる場合をいいます。
乳歯の場合、萌出性嚢胞が原因であることが多いです。
また、萌出経路に過剰歯や歯牙腫などの障害物があるとき、歯の萌出が困難になることもあります。
③萌出遅延
乳歯では4ヵ月、永久歯では1年以上、通常の萌出時期を過ぎても萌出してこない場合を萌出遅延といいます。多数歯の著しい萌出遅延があるときには、成長ホルモンの異常や甲状腺・副甲状腺機能異常などの全身的疾患を原因として考える必要があります。局所的なものとして、歯胚の位置異常や形成異常、歯肉の肥厚、萌出余地の不足、先行乳歯の晩期残存、早期抜歯などがあります。乳歯の萌出遅延は、早産の小児にみられることがあります。
○萌出方向の異常
➀異所萌出
正常な位置より離れて萌出するものを異所萌出といいます。原因は永久歯胚の位置異常、小さな顎骨、顎骨と歯の大きさの不調和、過剰歯の存在、乳歯の晩期残存により起こってきます。下顎中切歯の異所萌出では、乳中切歯の舌側から萌出するもので、ほとんどの小児でみられることから異常とは考えられていません。上顎第一大臼歯の異所萌出では、多くの場合、隣在歯である第二乳臼歯の遠心根を吸収しながらも萌出する(ジャンプ型という)。まれに、第二乳臼歯に引っかかった萌出できず(ホールド型という)、第二乳臼歯の抜歯でようやく萌出できることもあります。また頻度は少ないが、上顎犬歯の異所萌出では、近心にある側切歯さらには中切歯の歯根吸収を引き起こすことがあります。
○萌出不全
➀低位乳歯
咬合を営んでいた乳歯、特に乳臼歯がなんらかの原因により周囲歯槽骨との骨性癒着を引き起こし、低位を示すようになったものです。左右対称的に、また、家族的に発生する傾向がありますが、原因は明らかになっていません。顎の発育に伴い低位の程度が強まり、開咬をもたらすため、完全に埋入する前に抜歯し、保隙装置を装着することを勧めます。
➁埋伏
一定の萌出時期を過ぎても歯冠の一部あるいは全部が口腔内に萌出してこないものをいいます。乳歯の埋伏は永久歯に比べて頻度は少なく、低位乳歯を放置することにより起こる埋伏とは異なります。1歯または数歯の場合は、局所的な原因で発生するが、多数歯の埋伏は鎖骨頭蓋異骨症など全身性疾患に伴って現れます。
- 鎖骨頭蓋異骨症
鎖骨の全部または部分的欠如と頭蓋の異骨症が合併した奇形で、常染色体優性遺伝で骨系統疾患である。
〈口腔内の特徴〉
・多数の過剰埋伏歯
・乳歯の晩期残存、永久歯の萌出遅延
・化骨障害による上顎発育不全→相対的な反対咬合
○乳歯の早期脱落
乳歯の歯根吸収が何らかの理由で早まり、乳歯が早期に脱落することで咀嚼や発音などの口腔機能に影響を及ぼすことがあります。さらに、乳歯の早期脱落により、隣在歯の傾斜・移動と対合歯の挺出が起こることがあります。また、乳歯歯列の乱れにより、永久歯の埋伏や叢生、顎の偏位を惹起することがあります。
○乳歯の脱落遅延
乳歯の歯根吸収が遅延あるいは停滞すると、後続永久歯の萌出遅延、永久歯の埋伏、萌出部位の異常などが起こります。また、永久歯歯胚の位置異常により乳歯の歯根吸収が遅延する場合もあります。ときとして、代生歯の先天欠如により、乳歯歯根の吸収が起こらず、乳歯が晩期残存することもあります。