コラム

2024.05.07

不正咬合の予防

不正咬合の原因は、「先天的原因」と「後天的原因」の2つにあります。「先天的原因」は、遺伝や先天性疾患などがあり、予防することは難しいといわれています。しかし、「後天的原因」は口腔習癖や乳歯う蝕・早期喪失の早期の除去、また初期の不正が新たな不正を招いたり、増悪することを防ぐための早期の治療(抑制矯正)が予防的な方法と考えられます。不正咬合の予防には、虫歯や歯周病の予防、治療を行うこと、成長期の子供に正しい姿勢で、適切な食品の摂食、嚥下を行うことが良好な口腔機能の成育をはかることに大きく関係します。

乳歯う蝕(虫歯)、早期喪失の治療

乳歯が虫歯によって早期喪失した場合や、乳歯の歯根吸収が何らかの理由で早まり、乳歯が早期に脱落すると咀嚼や発音などの口腔機能に影響を及ぼすことがあります。さらに、乳歯の早期喪失により、隣の歯の傾斜・移動と対合歯の挺出が起こることがあります。また、乳歯歯列の乱れにより、永久歯の埋伏や叢生、顎の偏位などを引き起こすことがある。虫歯や歯周病になる前に定期的に歯科医院でのメンテナンスを行い、治療が必要な場合は、速やかに治療を受けましょう。

晩期残存乳歯の抜去

乳歯の歯根吸収が遅延あるいは停滞していると、永久歯の萌出が遅れたり、永久歯の埋伏、萌出部位の異常などが発生することがあります。また、永久歯の位置異常により乳歯の歯根吸収が遅れる場合もあります。永久歯の先天欠如(永久歯が先天的にない)により、乳歯の歯根吸収が起こらず、乳歯が晩期残存することもあります。乳歯の適切な時期での抜去は、永久歯の萌出を誘導します。なので、乳歯が歯根吸収されグラグラしている歯や、次の永久歯が生えてきている場合は乳歯を抜くようにしましょう。自分で乳歯を抜くのが怖い方は、かかりつけの歯科医院で抜いてもらいましょう。

口腔習癖の改善

口腔習癖とは、日常の生活の中で無意識に行っている口腔に関した習慣行動をいいます。口腔に関した習癖は多数あります。多くは、顎骨や歯並び、咬み合わせに影響を与えるだけでなく、成長発育期の咀嚼・嚥下・呼吸・発音などに悪影響を及ぼすことが多いと考えられています。その他に、口腔習癖は顔面、口腔機能や心身へも影響を及ぼします。

顔面への影響…口元の突出や表情が乏しい、アデノイド様顔貌

アデノイド:咽頭部に存在するリンパ組織である。咽頭扁桃ともいわれています。小児(小学児童)に多く、咽頭扁桃が肥大し、耳管閉塞や鼻閉塞を起こすことがあります。それにより、口呼吸になり口が開いた状態で顔の筋肉が緩み、間延びした顔つきが特徴です。

顎骨や歯列の成長発育への影響

①上顎前歯の萌出抑制
②上顎前歯の前突
③開咬
④上顎歯列弓の狭窄
⑤交叉咬合

口腔機能の影響

➀発音(サ行・タ行・ナ行・ラ行等の発音障害、舌足らずな発音)
➁咀嚼(よく噛めない、前歯で噛み切れない)
③嚥下(うまく飲み込めない、舌が前に突出する)
④呼吸(いつも口が開いている、口元の筋肉が緩んでいる、口呼吸)

口腔習癖の種類

➀舌癖(ぜつへき)

上下の歯の間に舌を出したり、飲み込む時に舌を突き出したりすることを舌癖といいます。舌癖があると、

舌が内側から歯を押す力が強く働き、外側の唇や頬の筋肉の押す力が相対的に弱くなります。

上顎前突や開咬になるだけでなく、サ行・タ行・ナ行・ラ行の発音障害や舌足らずな発音になることもあり

ます。

※舌突出癖(舌を突き出す癖)・異常嚥下癖(飲み込む時の舌や口唇等の異常な動きをする癖)・

弄舌癖(舌をかんだり、舌を曲げたり、舌を歯に押し付ける癖)などがあります。

舌癖を改善するために筋機能訓練(MFT)を行いましょう。

例)舌の先をスポットにつける訓練

・口を少し開けて、舌を細くして、舌の先をスポット(上の前歯の後ろの歯肉で、プクッと膨らんでいるあたり)につける。
・そのまま15秒間、舌を動かさずじっとする。

※舌の先が歯に当たったり、後ろに下がりすぎたりしないようにする。
※舌は細くしたまま、まっすぐ伸ばしてスポットにつける。
※舌の裏をスポットにつけず、舌の先をスポットにつける。
※舌の真ん中(舌背)が上あごにつくことは大丈夫です。

➁口呼吸

アレルギー性鼻炎やアデノイドなどの鼻咽腔疾患が存在すると鼻呼吸が困難になり、長時間にわたって口から呼吸することをいいます。ヒトは鼻呼吸により正常な呼吸活動を行っています。鼻呼吸と咀嚼、嚥下は適切に相互作用することで、顎顔面領域の調和した成長発育を助けています。しかし、睡眠時無呼吸症候群やアレルギー性鼻炎、アデノイド肥大、口蓋扁桃の肥厚などによって鼻閉や口呼吸になる原因になります。歯科矯正においても、上顎前突や開咬を主訴とする患者さんの中にも鼻閉や口呼吸を有する方多くおられます。口呼吸を行うことによって、上顎前突・開咬・歯列の狭窄・交叉咬合・歯肉炎・歯周炎などの影響があります。

口呼吸を改善するためには、

・鼻咽腔疾患などの原因疾患を治療する
・上顎前突などの歯並びを歯科矯正治療し、口を閉じやすくする
・口を閉じる訓練をするなどがあります。

③吸う癖やかみ癖

指や唇を吸う癖や指や唇などを異常に咬む癖をいいます。特に指しゃぶりは1~2歳に増加し、3歳頃から減少していき、5歳でほとんど消失します。5歳以上でも治らない場合は上顎前突や開咬になり、自然には治りにくいとされてます。吸う癖が原因で前歯部の開咬や上下の前歯の傾斜、口唇の弛緩、前歯部開咬により舌癖が併発、吸指癖の代償として咬爪癖が発現するなどの影響があります。かみ方の異常が原因で、歯列の変形や開咬、上顎前突、顎偏位、交叉咬合などの影響があるため、やめるようにしましょう。

※母指吸引癖(指をかむ癖)・吸唇癖(唇をかむ癖)・咬爪癖(爪をかむ癖)・咬唇癖(唇を上下の前歯の間に挟んでかみ締める癖)・物をかむ癖(鉛筆やタオルなどをかむ癖)などがあります。

④態癖(たいへき)

日常生活の中で無意識に行う全身に関連した習慣的行動のことを態癖といいます。これらは、歯列の変形や歯の移動、顔面非対称、顎関節症、全身のゆがみなどにつながることが知られています。

※うつぶせ寝・頬杖・姿勢の異常・常に一方向に向いて食事をする(テレビを見ながら)などがあります。

・猫背は、口呼吸や頬杖を誘発しやすく、机に向かっている時や、ゲームに集中している時に背筋を伸ばすように意識しましょう。足を組むのも避けましょう。

・頬杖やあご杖は、頭部の重さによって外側から顎を抑え込む力が働きます。習慣的になると、歯列が内側に傾き、舌のスペースが狭くなる、顎の位置のズレ、顎変形、歯列形態の非対称の原因になるのでやめましょう。

・うつぶせ寝や横向き寝は、就寝中に頭部の重さが顎や歯にかかり、顎の発育や歯並びに大きく影響するため避けましょう。

歯周疾患の治療と管理

歯周疾患が進行し、歯を支える歯周組織、歯槽骨が吸収すると歯は病的な移動を起こします。

垂直的な咬み合わせの支持が失われ、過蓋咬合や下顎歯列の叢生や上顎前歯の唇側移動などが生じます。歯周疾患を予防し、管理することは成人における不正咬合の予防となります。

乳歯列から永久歯列に移行するまでの期間は、口腔内にも大きな変化をしながら成長発育していきます。できるだけ永久歯を抜かずに歯をきれいに並べるには、この時期からの口腔衛生の管理が必要になってきます。虫歯や永久歯の生えかわりの管理、発音・呼吸・咀嚼・嚥下の機能面の異常やその他の悪習癖によって歯並びに大きく影響するため、早期に発見・予防するためにも歯科医院で定期的に健診しましょう。